~前回までのあらすじ~
田舎に里帰りしたイチローは、東京に戻るため新幹線に乗る。クソミソな妄想の末、隣の席に山本美月が座ると勝手に期待するイチロー。しかしその期待も虚しく、隣の席に座ってきたのは山本美月と正反対の、太めの中年だったのである。
チッ!
僕は心の中で舌打ちした。
理由は簡単だ。
僕のマイプリンセスシートに、このふざけた中年が座ってきたからだ!
本来ならば美月ちゃんが座る席、、、
クッ!
妄想と現実のギャップに僕は苦しんだ。
しかし、ここであることに気付く。
二つ隣の席、嫉妬役の里帆ちゃん席がまだ空いていたのである。
僕は僅かな望みを里帆ちゃん席に託して妄想した。
美月ちゃんが居なくなったって聞いて戻ってきちゃった。
そう言うと、里帆ちゃんは元の席に座った。
太めの中年男性を挟む形で、僕らは会話する。
僕:さっきは里帆ちゃんの気持ちに応えられなくてゴメン。
里帆:大丈夫。だって私から見ても二人ともお似合いだったから。
僕:里帆ちゃん、、、
里帆:幸せってこういうものなんだ!って見てて思ったよ、、、
その言葉を聞いた瞬間 僕は胸が苦しくなった。
こんな素敵な女性に悲しい思いをさせてたなんて、、、
里帆ちゃんに対する熱い気持ちがグングンと込み上げていく。
気が付くと、僕らは何も言わずに自然と見つめ合っていた。
すると突然 中央席の中年男性が立ち上がった。
こんな熱い視線に挟まれたら、勘の鈍い自分でも気づきます。
お似合いな二人の邪魔をするわけにはいきません!
そう言うと里帆ちゃんに席を譲ってくれたのである。
神展開キターーーーーー
僕は心の中で叫んだ。
しかし そんな僕の反応とは逆に、里帆ちゃんは席に座るのをためらっている。
いったいどういう事なのか?
少し間を置いて里帆ちゃんは呟く。
この席は美月ちゃんの席だから、私なんかが座っていいのかな?
可愛すぎる発言に僕の胸がキュンとする。
どうやら覚悟を決める時が来たのかもしれない。
フ~~ッ!
深呼吸をしたあと、僕は今年一番の決め顔をした。
この席はマイプリンセスシートって言って、僕のお姫様が座る席。
里帆ちゃん!僕のマイプリンセスシートに座ってくれますか?
僕の告白に、里帆ちゃんは嬉しそうに答える。
はい!かしこまりました!
ホテルマンか?と思わせる程の美しい返事に、僕の方がかしこまってしまった。
一部始終を見ていた先程の中年男性が、アカペラで中島みゆきの糸を歌って祝福してくれる。
渋い曲だが今の僕らにはピッタリの選曲だ。
顔を真っ赤にしながら僕らは見つめあった。
そして、
なぜ巡り合うのかを僕達は知った気がした。
それはきっと、
運命の赤い糸で結ばれているから、、、
素敵な妄想をしている間に列車は次の駅に停車した。
胸のドキドキが止まらない!
今度こそは頼む!
ドタバタと沢山の客が乗り込んでくる。
一回目は茶番!
そして今回が本番!
待ってるよマイプリンセス!!
頭の中でSoulja feat.青山テルマの “ここにいるよ” を流して準備は万端だ。
僕はここにいる!
愛の力で里帆ちゃんを呼び寄せるんだ!
そう自分に言い聞かせた僕は目をつむって神経を集中させた。
すると、イカくさい臭いが僕の鼻を刺激した。
ウッ!
思わず目を開けると、
はッ?
何だこのジジイ、、
LOVE&PEACE?
テメェが俺と里帆ちゃんの愛と平和を邪魔してんだよ!!
どっか行け!
睨んで威嚇する僕を尻目に、おっちゃんは里帆ちゃんの席に座りだした。
その瞬間、
何かの糸が切れたかのように、僕の目の前は真っ暗になっていた。