新幹線というカオスな空間 ②

 

~前回までのあらすじ~

田舎に里帰りしたイチローは、東京に戻るため新幹線に乗る。クソミソな妄想の末、隣の席に山本美月が座ると勝手に期待するイチロー。しかしその期待も虚しく、隣の席に座ってきたのは山本美月と正反対の、太めの中年だったのである。

     

      

  

     

    

チッ!

  

僕は心の中で舌打ちした。

理由は簡単だ。

僕のマイプリンセスシートに、このふざけた中年が座ってきたからだ!

本来ならば美月ちゃんが座る席、、、

   

クッ!

  

妄想と現実のギャップに僕は苦しんだ。

しかし、ここであることに気付く。

二つ隣の席、嫉妬役の里帆ちゃん席がまだ空いていたのである。

  

僕は僅かな望みを里帆ちゃん席に託して妄想した。

   

   

     

  

 

美月ちゃんが居なくなったって聞いて戻ってきちゃった。

そう言うと、里帆ちゃんは元の席に座った。

   

太めの中年男性を挟む形で、僕らは会話する。

  

僕:さっきは里帆ちゃんの気持ちに応えられなくてゴメン。

里帆:大丈夫。だって私から見ても二人ともお似合いだったから。

僕:里帆ちゃん、、、

里帆:幸せってこういうものなんだ!って見てて思ったよ、、、

   

その言葉を聞いた瞬間 僕は胸が苦しくなった。

こんな素敵な女性に悲しい思いをさせてたなんて、、、

里帆ちゃんに対する熱い気持ちがグングンと込み上げていく。

気が付くと、僕らは何も言わずに自然と見つめ合っていた。

    

すると突然 中央席の中年男性が立ち上がった。

   

こんな熱い視線に挟まれたら、勘の鈍い自分でも気づきます。

お似合いな二人の邪魔をするわけにはいきません!

    

そう言うと里帆ちゃんに席を譲ってくれたのである。

    

  

神展開キターーーーーー

  

  

僕は心の中で叫んだ。

  

しかし そんな僕の反応とは逆に、里帆ちゃんは席に座るのをためらっている。

いったいどういう事なのか?

少し間を置いて里帆ちゃんは呟く。

この席は美月ちゃんの席だから、私なんかが座っていいのかな?

   

可愛すぎる発言に僕の胸がキュンとする。 

  

どうやら覚悟を決める時が来たのかもしれない。

  

フ~~ッ!

深呼吸をしたあと、僕は今年一番の決め顔をした。

    

この席はマイプリンセスシートって言って、僕のお姫様が座る席。

里帆ちゃん!僕のマイプリンセスシートに座ってくれますか?

     

    

僕の告白に、里帆ちゃんは嬉しそうに答える。

  

はい!かしこまりました!

   

ホテルマンか?と思わせる程の美しい返事に、僕の方がかしこまってしまった。

  

一部始終を見ていた先程の中年男性が、アカペラで中島みゆきの糸を歌って祝福してくれる。

  

渋い曲だが今の僕らにはピッタリの選曲だ。

顔を真っ赤にしながら僕らは見つめあった。

    

そして、

なぜ巡り合うのかを僕達は知った気がした。

    

それはきっと、

    

運命の赤い糸で結ばれているから、、、

     

    

素敵な妄想をしている間に列車は次の駅に停車した。

     

   

胸のドキドキが止まらない!

今度こそは頼む!

 

ドタバタと沢山の客が乗り込んでくる。

     

  

一回目は茶番!

そして今回が本番!

待ってるよマイプリンセス!!

頭の中でSoulja feat.青山テルマの “ここにいるよ” を流して準備は万端だ。

   

僕はここにいる!

  

愛の力で里帆ちゃんを呼び寄せるんだ!

    

そう自分に言い聞かせた僕は目をつむって神経を集中させた。

  

 

すると、イカくさい臭いが僕の鼻を刺激した。

ウッ!

思わず目を開けると、

   

  

  

はッ?

何だこのジジイ、、 

LOVE&PEACE? 

テメェが俺と里帆ちゃんの愛と平和を邪魔してんだよ!! 

  

どっか行け!

睨んで威嚇する僕を尻目に、おっちゃんは里帆ちゃんの席に座りだした。

    

その瞬間、

何かの糸が切れたかのように、僕の目の前は真っ暗になっていた。

   

  

続き→新幹線というカオスな空間 ③

   

  

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